北森鴻氏の「冬狐堂シリーズ」の2作目、『狐闇』。2002年の作品。
けっこう楽しみにしていた1冊だったので、文庫本で約550ページの長編ですが、一気に読んでしまいました。
一応主人公は「冬狐堂シリーズ」の宇佐見陶子ですが、主要なキャラクターとして、著者の他のシリーズ「蓮丈那智フィールドファイル」から民俗学者・蓮丈那智。
「孔雀狂想曲」から雅蘭堂店主・越名集治。
そして物語は「香菜里屋シリーズ」のバー香菜里屋へ全員が集結してエンディングを迎えるという。
例えばマンガだったら、松本零士の各作品だったり、水島新司の『大甲子園』に近いと思いますが、こういうオールスター的作品は読んでいるこっちもけっこうテンションが上がる
ストーリーは、競り市で青銅鏡を落札して以降、競り市に参加していた男が自殺したり、宇佐見陶子自身が絵画の贋作詐欺者として骨董業者の鑑札を剥奪されたりとストーリーが進んでいく。
物語の中心になるのは、明治期に制作されたと思われる青銅鏡。
そして中盤からのひとつのキーワードとなる「税所コレクション」。
「税所コレクション」という単語にどうもデジャヴ感を感じると思ったら、なんと中盤以降の1部分は「蓮丈那智フィールドファイル」の第1作「凶笑面(2000年)」に収録されていた短編「双死神」を、登場人物の視点を変えて語られているという。
「双死神」では蓮丈那智の助手・内藤三國の視点ですが、今回は宇佐見陶子の視点から。
「双死神」の真相が実はちょっと違ったものだったのも判明しますし、また「双死神」を読んでいたとしてもまったくネタバレになっていない。
現代の宇佐見陶子が陥れられた事件と殺人事件、また過去からの青銅鏡の歴史との謎が同時進行で進んでいきますが、過去からの話は神器や国家の思惑等、相当大きい話に関連してしまい、自分としては肌に近い緊張感というものはちょっと感じられなかったかも。
逆に言うと、そういうやたらとスケールの大きい話と現代の殺人事件が結局乖離してしか取れなかったというか。
ただ、今回の作品はやはり北森鴻オールスター作品として、エンターテインメントとして楽しんだ方が良いかと。
「香菜里屋シリーズ」も読んでいた方が良いですが、少なくとも「蓮丈那智フィールドファイル」を読んでいれば、かなりの興奮とワクワク感で読み進めていけますし。
これだけキャラクターの立った作品群を生み出した作者なので、またこういったオールスター的作品を読みたいと思っても、今年初めの作者の急逝によりそれは叶わないんですよねぇ。
結局それが一番残念です(涙)。