去年11月の副鼻腔炎での手術と入院中に何冊かの本をKindle PaperWhiteで読んだのだけど、その中の1冊で先日改めて読み返してみた有栖川有栖氏の『鍵の掛かった男(2015年)』。
小さなホテルのスイートルームに5年以上も住み続けた男が自殺したのだけれど、それに疑問を持った彼の知人の大御所女流作家が主人公の作家アリスに相談を持ちかけ、亡くなった男についてそして自殺なのか他殺なのかを調査をしていくというストーリー。シリーズのメインの探偵の准教授火村英生は大学の入試の仕事で身動きが取れず中盤過ぎまで参加してこないので、今作では作家アリスの主人公感が強い。
亡くなった男の素性は杳として知れずタイトルの通りの"鍵の掛かった男"なのだけど、ストーリーの展開とともに徐々に明らかになっていくのはパズル的な部分もあってこの点だけでもミステリの醍醐味がある。
最後に明らかになる真相は意外ながらそれまでにばら撒かれた伏線をすべて回収するものでもあって、そして読後感の良いエンディングで終幕。
厚みが目に見える紙の本と違って電子書籍のKindle版では本の長さがいまいちピンと来ていないのだけれど、有栖川有栖作品ではトップクラスの長編だったらしい。ただ内容が面白いのでどんどん読み進めてしまって長いなという感覚はまったく無かった。それは読み返しでも同じ。
"鍵の掛かった男"の素性そして過去を探っていくのは当然その人間の存在を描きなおしていくことでもあって、この点は有栖川有栖氏を含めた"新本格"の作家たちが「人間が描けていない」とかつて批判されたことへの反論になっているというのは考えすぎか。
自分としては有栖川有栖氏の作品の中でもトップクラスに面白かった。また細部を忘れた頃に(数年かそれとも10年か(汗))読み返してみたいかなと。