2024年03月13日

有栖川有栖 / 鍵の掛かった男

去年11月の副鼻腔炎での手術と入院中に何冊かの本をKindle PaperWhiteで読んだのだけど、その中の1冊で先日改めて読み返してみた有栖川有栖氏の『鍵の掛かった男(2015年)』。

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小さなホテルのスイートルームに5年以上も住み続けた男が自殺したのだけれど、それに疑問を持った彼の知人の大御所女流作家が主人公の作家アリスに相談を持ちかけ、亡くなった男についてそして自殺なのか他殺なのかを調査をしていくというストーリー。シリーズのメインの探偵の准教授火村英生は大学の入試の仕事で身動きが取れず中盤過ぎまで参加してこないので、今作では作家アリスの主人公感が強い。
亡くなった男の素性は杳として知れずタイトルの通りの"鍵の掛かった男"なのだけど、ストーリーの展開とともに徐々に明らかになっていくのはパズル的な部分もあってこの点だけでもミステリの醍醐味がある。
最後に明らかになる真相は意外ながらそれまでにばら撒かれた伏線をすべて回収するものでもあって、そして読後感の良いエンディングで終幕。


厚みが目に見える紙の本と違って電子書籍のKindle版では本の長さがいまいちピンと来ていないのだけれど、有栖川有栖作品ではトップクラスの長編だったらしい。ただ内容が面白いのでどんどん読み進めてしまって長いなという感覚はまったく無かった。それは読み返しでも同じ。
"鍵の掛かった男"の素性そして過去を探っていくのは当然その人間の存在を描きなおしていくことでもあって、この点は有栖川有栖氏を含めた"新本格"の作家たちが「人間が描けていない」とかつて批判されたことへの反論になっているというのは考えすぎか。
自分としては有栖川有栖氏の作品の中でもトップクラスに面白かった。また細部を忘れた頃に(数年かそれとも10年か(汗))読み返してみたいかなと。  

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2023年05月08日

有栖川有栖 / 高原のフーダニット

この間まで法月綸太郎氏の紙の本を読み返していたのだけど、すべて読み終えたので有栖川有栖氏の作家アリスシリーズに戻ってきて、Kindle版でけっこう前にDL購入済みだった『高原のフーダニット(2012年)』を読んだ。

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2編の中編作品とその間に「ミステリ夢十夜」というショートショートのような10編の超短編があるという構成。
「オノロコ島ラプソディ」は絶対に偽証はしていないという証言が重要になり推理が展開していくのだけど、ちょっとアンフェアな感も?
偽証はしていないということに間違いはないのだけれど。
「ミステリ夢十夜」は夏目漱石の「夢十夜」の有栖川有栖版ということで漱石の「夢十夜」と同じく話にオチが無いことなどはもちろん同じとなるのだけど、話の幻想性というような雰囲気がまったく違う。「夢十夜」が書かれたのは明治の終わり(1908年)でそれから100年以上が経っての作品なのでそりゃそうなのですが。これが成功しているのかどうなのかは自分にはよくわからなかった。
表題作の「高原のフーダニット」は犯人にはコレが必要だったというわりあいシンプルなトリック。直球で攻めたということなのかもしれないけれど、有栖川有栖作品としてはちょっと肩透かし感もあったり。


全体的にもちょっとあっさりとした1冊だったという印象。作品がダメな水準以下ということはないのだけど、有栖川有栖作品としては過去作に匹敵していないというか。


作家アリスシリーズの次巻は『菩提樹荘の殺人(2013年)』『怪しい店(2014年)』『鍵の掛かった男(2015年)』と続いていってそれぞれKindle版で買っていく予定なのだけど、『鍵の掛かった男』がセールで安くなっていたので先に買ってしまった。
とはいえ順に読んでいこうと思っているので、次に読むのは『菩提樹荘の殺人』の予定ですが。  
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2023年02月15日

法月綸太郎作品

この間まで読み返していた有栖川有栖作品は、紙の本を読み終えてKindle版に移行して2冊読み終えたところでいったん休止。
今度は法月綸太郎作品を読み返している。

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有栖川有栖作品に比べると驚くくらい内容を覚えている作品が多い。有栖川有栖作品はトリックも犯人もほぼ忘れてしまっていてもはや新作を読んでいるのと変わらない作品も多かったのに(汗)。まあ法月綸太郎作品の方は何度か読み返していたり、寡作な作家なので作品数が少ないということがあるのだろうけど。

あとはストーリーにインパクトのある作品が多いということか。
頼子のために(1990年)』は何度読んでも辛く悲しい気持ちになる。ミステリとしては途中からすべてがひっくり返りだしてその展開は十分に面白いのだけど。
ストーリーの時系列としては連続している『ふたたび赤い悪夢(1992年)』も内容としては重いのだけど『頼子のために』と同じく対になっている親子関係の陰と陽というテーマ、そして名探偵の挫折と再生。終盤に「美和子のために」という台詞があるけれど、それも含めて最終ページに向かって解決に向かっていくところは泣ける。最後は大団円となるので、読後感は非常に良い。
雪密室(1989年)』『頼子のために』『ふたたび赤い悪夢』という連続したストーリーが本当によく出来ている。

で、今は『二の悲劇(1994年)』を読み返し中。これも内容はほぼ覚えていて、あまりに悲劇なストーリーに読み返しでもちょっと嫌な気持ちになっているのだけど、まあ読み進めて続巻に続いていこうと。

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持っている紙の本に続く『キングを探せ(2011年)』はすでにKindle版で購入してKindle PaperWhiteにDL済み。これ以降はKindle版で買っていく。読み始められるのはまだまだ先になりそうですが。
法月綸太郎氏は寡作なので、『キングを探せ』以降の探偵法月綸太郎シリーズが2冊、ノンシリーズ(探偵法月綸太郎が登場しない)で未読なのが4冊なので追いつきやすい。


ちなみに紙の本で最後に持っている『探偵ホロスコープI 6人の女王の問題(2008年1月)』の次に出たのはノンシリーズの短編集の『しらみつぶしの時計(2008年7月)』で、Amazonで確認すると表紙や短編のタイトルに見覚えもあるのだけど本棚のどこにも見当たらず。
『探偵ホロスコープI』で止まっていたということは、実は読んでいないのだろうか。
そのあたりが今自分の目先にある完全なミステリ……。  
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2023年01月25日

有栖川有栖 / 長い廊下がある家

有栖川有栖氏の作家アリスシリーズの紙の本を10年ぶりくらいに読み返していたのだけど、ちょっと前にようやくすべて読み終えた。



で、そのままKindle版ですでに買っていた『長い廊下がある家(2010年)』に。ここからは電子書籍版で買ってKindle PaperWhiteで読んでいく。

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4作が収録された短編集。
表題作の「長い廊下がある家」は2つの廃屋を地下でつなぐトンネルの真ん中で殺人が起こるという事件。
トリックはパズル的でもあり、良く出来ているという印象。自分としてはこの4作の中では1番。
「雪と金婚式」は証人が錯誤しているのは途中で明らかになってくるのだけど、その錯誤をもたらしたもう1人の証人が偶然記憶喪失になってしまい、それを思い出させるショックを与えるために探偵役の火村英生が当時を再現するということでストーリーの展開が面白くなったような。
「天空の眼」は火村英生が不在、「ロジカル・デスゲーム」は作家有栖川有栖がほぼ不在という今までには無かったパターンの作品。
「ロジカル・デスゲーム」は自分も最後の火村英生の解説を読むまでちゃんと理解出来ていなかったのだけど、ガチガチのロジックに基づいた犯人との駆け引き。ちょっと「スイス時計の謎」を思い出させる。


4作ともに面白い作品でした。1冊の本としてちょっと短いかなというのはありましたが。
作家アリスシリーズの次作の『高原のフーダニット(2012年)』もすでにKindle版でDL購入してあるので、引き続き読んでいきます。  
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2022年12月09日

有栖川有栖 / 作家アリスシリーズ

ちょっと前に有栖川有栖氏の学生アリスシリーズの既刊で一番新しい『江神二郎の洞察(2012年)』をようやくKindle版で読んで、そのまま学生アリスシリーズをすべて読み返し。



そしてそのまま作家アリスシリーズを最初から読み返し中。
自分でもビックリするくらい内容を覚えていなくて、トリックにしても犯人にしても覚えていないので新作を読んでいる状態と変わらない(爆)。10年以上前に1度読んだきりだとこんなものなのか。
読み進めていって『モロッコ水晶の謎(2005年)』まで来た。

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ここまで読んできて読み応えがあったのは一番ページ数が多い大作長編の『マレー鉄道の謎(2002年)』ですが、非常な驚きがあったのは短編集の『スイス時計の謎(2003年)』の表題作の中編「スイス時計の謎」。
高校時代のサークルの同窓会直前にメンバーの1人が殺され、メンバー全員がお揃いで購入して同窓会では着用していたスイス製の腕時計が被害者の腕から消失。被害者と犯人が格闘した際に犯人の腕時計のガラスが割れたので、同窓会で腕時計を着用していないのを怪しまれないために被害者の腕時計を犯人が奪って着用しているのでは?という推理の上で、探偵役の火村英生が5人の容疑者から動機やアリバイではなく被害者の腕時計を装着しているのが犯人ということを論理(ロジック)だけで解いていくという作品。
一部の隙もない完璧な論理での推理で、小説としても完璧なんじゃないかと。なぜこの作品さえ覚えていなかったことを不思議に思う(汗)。


紙の本はあと4冊で読み終わりますが、続く『長い廊下がある家(2010年)』はKindle版ですでに購入済みという。Kindle PaperWhiteにDLしてある。

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これを含めて作家アリスシリーズで未読なのはあと9冊。ずいぶん長いこと追いかけていなかったのだなとは改めて思う。
作家アリスシリーズをすべて読み終えたら、次は法月綸太郎氏の未読の作品を読んでいく予定。
とりあえず、読む予定の本があるというのは幸せなことだなと。
  
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2022年10月14日

有栖川有栖 / 江神二郎の洞察

有栖川有栖氏の『江神二郎の洞察(2012年)』のKindle版。
数年前に紙の本はもう置き場がないので買わないようにしたのだけど、シリーズだと数ヶ月ごとに新刊が出るマンガはKindleで買う習慣が出来たのだけど小説等は切り替えのタイミングを失ってしまっていて単純に買わなくなってしまって、最近になってようやく買ってそして読み終えた。

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内容は学生アリスシリーズ初の短編集で、各短編が発表されたのは1986〜2012年の長期間に渡る。
「やけた線路の上の死体(1986年)」が筆者のデビュー作でもあり当然学生アリスシリーズの最初の作品。
長編の学生アリスシリーズとのつながりもあって、「桜川のオフィーリア(2005年)」は長編の『女王国の城(2007年)』でもちらっと言及されていたので、ようやく読めた嬉しさもある。
「蕩尽に関する一考察(2003年)」は、長編第2作の『孤島パズル(1989年)』から登場したマリアが英都大学推理小説研究会に参加する経緯が描かれていて、この作品が並び順では一番最後。発表順ではなく作品内の時系列順なので、ここでようやく長編第2作目の直前になったと。
学生アリスシリーズは長編5作短編集2作となる計画らしいので、ここからあとは短編集第2作に収められるということのよう。

とはいえ長編4作目の『女王国の城(2007年)』からすでに15年が経って、まだ5作目は書かれていない。
『双頭の悪魔(1992年)』から『女王国の城(2007年)』も15年の間隔が開いたけれど、それは更新されるらしい。まあ読者としたら待つしかないし、今回の『江神二郎の洞察(2012年)』を発売から10年経ってようやく読んだ自分にはなにも言う資格は無さそう(汗)。

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久しぶりに学生アリスの作品を読んだということで、そのまま紙の本の長編シリーズも読み返し。
やっぱり面白くて、1日1冊ペースくらいで読み進めてしまった。
そしてそれぞれ10年以上は読み返していなかったのだけど、驚くほどに内容を憶えていなかった(爆)。トリックも犯人も忘れてしまっていて、ほぼ新作を読んでいるのと変わらない。
まあおかげで楽しめたのですが、今後10年に1度読み返していけばもう新刊は買わなくて良いということになりかねない……。  
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2020年04月09日

鯨統一郎 / ミステリアス学園

かなり久しぶりに読んだ鯨統一郎作品の、『ミステリアス学園(2003年)』。

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全7話だけれど話は連続しているという1冊。
主人公の湾田乱人がミステリアス学園ミステリ研究会に入部して、一緒に入部した女の子や先輩たちからミステリ講義を受けていくものの、同時に部員がどんどん死んでいく。
この作品の主眼としてはこのミステリ講義が非常に良く出来ていて、主人公とともに読者もミステリの歴史とジャンルの分類を学んだり再確認が出来てしまうという。
作中でも言及されているのだけど、本編終了後に表で表されている"本格ミステリ度MAP"のミステリ度の縦軸と論理度の横軸の一番右上に名前が挙げられているミステリ作家は、やっぱりそうですよねで爆笑できる(爆)。

作中では密室・倒叙・メタ・小説ならでは(映像が無い) というようなミステリのトリックがたくさん。
終盤までかなり面白いので、終わらせ方は他になかったのかと思わないでもないのですが、まあこの終わらせ方でこそのこの作品なのか。
ストーリーはともかく、本格ミステリの勉強になる作品。
直接的な続編ではないものの、『パラドックス学園(2006年)』(主人公はワンダー・ランド)という作品もあるようなので、機会があればこちらの作品も読んでみたいかと。  
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2020年03月05日

歌野晶午 / ガラス張りの誘拐

この間からずっと積んだままだった紙の本を読破していっていますが、今回読んだのは歌野晶午氏の『ガラス張りの誘拐(1990年)』。
歌野晶午氏の作品を読んだのは、どうやら4年ぶりらしい(汗)。

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作品は三部作。しかもタイトルが「第二の事件」「第三の事件」「第一の事件」という順番。
「第二の事件」は連続婦女誘拐殺人事件。犯人が新聞社に犯行声明文を送りつけて捜査は混乱しつつ最終的に犯人の自殺によって事件は解決するも、犯人の遺書によれば犯行声明文を書いたのは自分ではないという謎。
「第三の事件」は「第二の事件」でも捜査に当たっていた刑事の娘が誘拐され、犯人からの要求は身代金1億円。しかしまず警察には連絡しろ身代金の受け渡しに向かうときは警察もマスコミも呼べという、誘拐犯としては謎すぎる命令。
そして「第一の事件」は当然順序としても数年前に戻ってのストーリー。
最後に「エピローグ」でいくつかの残されたままだった謎がすべて明かされるのですが、広げた風呂敷はここで急速にキレイに畳まれたという印象。

プロットとテンポ感が非常によく出来た作品という感想でした。自分は中断するタイミングが見つけられず、一気に読み終えてしまった(笑)。
30年も前の作品で、作中でもポケベルが一瞬出てくる程度で連絡手段は固定電話と公衆電話という時代なのだけれど、そんなに違和感はなく読める。
ドラマ向きなんじゃないかなという印象も受けたのですが、読み終えてから調べてみたら2002年に奥田瑛二氏主演でドラマ化されていたそう(北の捜査線・小樽港署)。見てみたいなとも思いますが。


このブログで歌野晶午作品で読んだものを確認してみると、「葉桜の季節に君を想うということ(2003年)」は覚えているのだけど、「家シリーズ」などはまったく覚えていない(汗)。
今やっている積ん読の始末が終わったら、そのあたりは読み返したいなぁとは今回思ったのですが。  
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2016年05月06日

鯨統一郎 / 邪馬台国はどこですか?

わりと有名な作品だと思うのだけれど今さら読んだ、鯨統一郎氏の『邪馬台国はどこですか?(1998年)』。

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6編が収められた短編集で、「(仏陀が)悟りを開いたのはいつですか?」「邪馬台国はどこですか?」「聖徳太子はだれですか?」等々のタイトル通りのテーマを題材に、徹底的に論理的(ロジック)な解決をしていくというちょっと変わった作品。


シャーロック・ホームズの、
「不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる」(ブルースパティントン設計図)
を地でいく解決法で歴史の謎を解き明かしていくのは、かなり面白い。

例えば表題作の「邪馬台国はどこですか?」では、江戸時代に新井白石と本居宣長が大和と九州というそれぞれの説を述べて以来300年間、2つの場所という限られた地域でさえいまだに卑弥呼の墓が発見されないのはなぜなのか?という事実からは、この作品で提示された結論にも整合性はありそうな(笑)???


歴史にかすかながら知識と興味のある自分には、全般なかなか面白い作品でした。
鯨統一郎作品を読んだのも初めてだったのですが、シリーズ次作の『新・世界の七不思議(2005年)』も買って積んであるので、いずれ読んでいこうと思います。  
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2016年02月26日

岡嶋二人 / そして扉が閉ざされた

岡嶋二人氏の『そして扉が閉ざされた(1987年)』。

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不審な死を遂げた女性の、遊び仲間だった4人が3ヶ月後に遺族の母親に地下シェルターに閉じ込められ、最初は脱出を試みるもその困難な作業と並行して、事件時の行動をそれぞれの視点から回想し、真相にたどり着いていくというストーリー。
それぞれの証言を組み合わせていく様はまさにパズルだし、それを行う場所が密室であることから、回想・組み立て・検証という進行がじっくり進んでいくという、非常に稀なしかしよく出来た舞台設定だなと。

約30年前の”昭和”に書かれた作品だけれど、古いと感じる部分はあまりなし。
非常に純粋なパズル的ミステリの傑作だと思います。  
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2016年02月21日

北森鴻・浅野里沙子 / 邪馬台 蓮丈那智フィールドファイルIV

ようやく読み終えた、北森鴻・浅野里沙子共著の『邪馬台 蓮丈那智フィールドファイルIV(2011年)』。

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作品は、『孔雀狂想曲』の越名集治「旗師・冬狐堂シリーズ」の宇佐見陶子に「香菜里屋シリーズ」の"バー香月"等々の、北森作品のキャラクターや場所が登場し、しかも彼らの視点からストーリーが進むことも多いという、北森鴻作品を多く読んでいるものにはより面白みが深まるという組み立て。
「蓮丈那智フィールドファイルシリーズ」と「旗師・冬狐堂シリーズ」は、お互いのキャラクターが行き来する作品も多かったので、北森鴻氏がさらに多くの作品を作っていけば、手塚治虫作品や赤塚不二夫作品のようなキャラクター展開になったかもしれないということは、非常に惜しいことに思ったり。


"誰がどのように殺されたか"というような一般的なミステリとは違いこの作品の主題は、奇妙な文書「阿久仁村遺聞」の解明と、そこからつながる非常に大きなテーマ"邪馬台国"についての考察。
結末に納得出来る部分はありながらも、現実に結論の出ている事柄ではないので、もちろんこれは北森鴻氏の史観ということですが。


文庫版で全650ページの作品のうち生前の北森鴻氏が書いたのは437ページまでで、残りの約1/3は浅野里沙子氏が引き継いで完成させたもの。
文体等に違和感はないものの、北森鴻氏の頭にあったのはまた別のクライマックスだったのかも???という想像もできるのですが、これは浅野里沙子氏への不満ではなくてこちらの想像力を刺激してくれたということでの興味。
未完で終わってしまったかもしれない、「蓮丈那智フィールドファイルシリーズ」の最初で最後の長編作品を完成させてくれたことには感謝しかできないのではないかと。


北森鴻氏の新作はもう出ませんが、今までの傑作を読み返すことは永遠と出来る。
まずは、この作品につながる「旗師・冬狐堂シリーズ」の『狐闇』を読み返してみようかと思っています。  
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2016年01月23日

邪馬台 蓮丈那智フィールドファイルIV、の前に

けっこう前から積んだままになってしまっていた、北森鴻・浅野里沙子共著の『邪馬台 蓮丈那智フィールドファイルIV(2011年)』。2010年に北森鴻氏が急逝したあとに浅野里沙子氏が引き継いで完成させた作品。
文庫本で約650ページという、シリーズ最初にして最後の長編作品なので、本の厚さにしても最終作ということにしても読み始めるのに思い切りがいる感じだったのですが、いい加減読み始めようかと。
明後日25日が、北森鴻氏の命日ということに気づいたということもあるのですが。

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しかしそれ以前のシリーズも、各本約300ページほどの短編集ということもあるし、読んでから『邪馬台』へいこうかということで、『凶笑面(2000年)』『触身仏(2002年)』『写楽・考(2005年)』の3冊を引っ張り出してきてしまった(爆)。

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以前読んで以来読み返していないので、まあいい機会かと。
しかし危ないのは、蓮丈那智も登場する「旗師・冬狐堂」シリーズまで読み返しに入ってしまうかもというのが(汗)。  
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2015年12月30日

歌野晶午 / さらわれたい女

文庫本で約300ページと短い作品だったこともあるけれど、一気に通して読んでしまった歌野晶午氏の『さらわれたい女(1992年)』。

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「私を誘拐してください」と頼んできた女性の依頼通りに"狂言誘拐"を仕組み成功させた便利屋が、彼女が身を隠していた部屋に行くと彼女は殺されているという、一応メインのストーリーは"誘拐もの"というミステリ。

なにを書いてもネタバレにつながりそうなのであまり書けませんが、執筆された当時の、まだ携帯電話はなくダイヤルQ2だったり車載電話だったりを駆使して警察に発信元がバレないようにするアイデアはかなり考えられたものだったはず。自分はまだわかりますが、理解できない人も多くなっている時代になってきているはずなので。
そして誘拐ものの最大の難点、身代金取り引きのための電話連絡での逆探知と、身代金受け渡しで人間同士の接触が起こってしまうという点で頭を悩ませるのは、誘拐犯人と作家(汗)であることは間違いないので。

最初からの不可解な点が作品を通してつきまとわってしまうところと、誘拐された女性の夫の弟が作品序盤でかなりキレる頭脳を見せていながら、後半では消えてしまうところはちょっと残念ですが(爆)、一気に読み進められたのは作品が面白いからかと。


法月綸太郎氏の解説も、ここ数年自分が読んでいる岡嶋二人氏と歌野晶午氏の相互の影響を記しているのもかなり興味深い。  
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2015年09月12日

法月綸太郎 / 誰彼(たそがれ)

何度か読み返しているのだけれど久しぶりにまた読み返した、法月綸太郎氏の『誰彼(たそがれ)(1989年)』。

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読み返した理由というのは、結局トリックやらの内容をしっかり把握出来ていなかったというのと、忘れてしまっている(爆)との両方ですが(汗)。


新興宗教の教祖が、他に誰も立ち入れない塔の天辺の密室から消えて、二重生活を送っていたマンションで首なし死体で発見されるというストーリー。
教祖は耳の障害を治した手術の痕があったということから、首なし死体になったということは本当にこの死体は教祖自身のものなのか?
そして教祖の双子の兄弟に兄との3人の似た"顔"があるというところから、自分はストーリーをきちんと把握出来ないという始末になってしまったとは思うのですが。

とはいえ、主人公の「"探偵"法月綸太郎」がいっこうに冴えない推理を展開し続けるということもこちらの捉え方の障害にもなったのかとは思ったり(笑)。
著者としては3作目の作品で、「"探偵"法月綸太郎」が初登場した2作目の『雪密室(1989年)』でも実質的な主人公は父親の「法月警視」なので、この初期の作品ではまだまだ「"探偵"法月綸太郎」の立ち位置は探り探りだったのかと。


しかし今回で一応内容はちゃんと咀嚼できたかと思いますし、この前後の初期の作品を読み返してみたいかとも思いました。
次作の「頼子のために(1990年)」と「一の悲劇(1991年)」は、ミステリ以前にストーリーが非常に重い内容なので、読み返すにも若干の勇気はいるのですが……。  
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2015年08月16日

岡嶋二人 / あした天気にしておくれ

岡嶋二人氏の『あした天気にしておくれ(1983年)』。
一気に読んでしまった。

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競走馬の狂言誘拐の犯人目線で綴られる倒叙モノかと思いきや、2億円の身代金を要求する脅迫状は自分で書いたものではないものが送られたところから、さらに奇妙な誘拐事件となっていくというストーリー。
身代金目的の誘拐の犯人側にとっての最大の危機は、当然身代金の受け渡しとなるのですが、今作で展開された2億円の受け渡し方法は驚くもの。
長編ながら殺人が起こらないミステリというのも、この作品を独特のものにしているのかも。

30年以上前のという古くささなどを感じない、非常に楽しめた作品でした。
また読み返すことがあると思います。  
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2014年05月22日

岡嶋二人 / コンピュータの熱い罠

岡嶋二人氏の『コンピュータの熱い罠(1986年)』。

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86年当時に、コンピュータに入力された個人情報をもとに男女を引き合わせる結婚相談所という設定はなかなか斬新だったと思うのだけれど、その個人情報というものが物語のひとつの鍵となる、複数の殺人事件。
さらにいえば、まだ「死亡フラグ」という単語はなかった時代だと思うのだけれど、それが顕著にみられる部分があるのは少しおかしく思えてしまう部分かも。


個人情報・コンピュータのプログラム・ハッキング等々、ネット社会となった現代の方がさらに現実的に感じられるパーツを用いて組み立てられた作品。
かなり終盤になってからクライマックスに向かっていく展開で、このわずかな残りページでどうなるのかというドキドキ感は紙の本ならではなのかも(笑)。
まあ電子書籍だったとしても数字で残り何ページとかは表示されるのですが、厚みという触感に連動するドキドキ感はまた別なので。


文庫で300ページちょいとあまり長くないこともあり、読み始めてから一気に最後まで読んでしまった作品。
面白かった。  
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2014年02月12日

岡嶋二人 / 99%の誘拐

岡嶋二人氏の『99%の誘拐(1988年)』。

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これ自体が短編としても成り立つ95ページに渡る第一章と、第一章で誘拐された子供が成長して主役となる第二章以降の2つの誘拐事件が展開される作品。

第一章の犯人も中盤で明かされてしまい、フーダニット(誰が)ではなくハウダニット(どのように)を中心にする組み立て。
第一章の犯人というのはもっと引っ張って最後に明かすということも出来たと思うのですが、それをしなかったのは比重をハウダニットへ完全に傾けたかったせいか。

第二章以降では、完全犯罪としての誘拐を目論むという珍しいテーマでの犯人の姿が描かれるのですが、ノートパソコンだったりの通信を前面に出したやり方は1988年に発表された作品としても非常に先進的だったかと。
当時は「こんなことはありえない」と捉えられてしまったかもしれませんが、今の時代に読んでみるとリアリティは増しているかも。


読み手が推理する場面はあまり無い作品ですが、なにしろテンポが良いし読んでいて非常に面白い作品でした。ほぼ一気に読み通してしまった。
ちょっと時間を置いてからまた読み返してみたいとさえ思っています。
傑作。  
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2014年01月18日

岡嶋二人 / どんなに上手に隠れても

岡嶋二人氏の「どんなに上手に隠れても(1984年)」。

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テレビ局からアイドル歌手が誰にも気づかれずにさらわれるという、けっこう派手な誘拐もの。
「誘拐」に定評のあった作家だけあって、さすがに全体の組み立てが上手いと思わされる。
あと、本作でストーリーの幹を固めているのは、各キャラクターの行動原理もそれに寄ったものになる、芸能界という世界の表裏の諸事情。
まあ終盤の謎が明かされる部分で小さく納得いかない部分、というかあまり興味の乗らない解決な部分もあるのですが、作品としてはテンポの良い、広げた風呂敷をちゃんと畳んでくれている作品ということになるのではないかと。


岡嶋二人氏の作品は、とりあえず誘拐ものを続けてみようということで、次は「99%の誘拐」を読む予定。  
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2013年12月26日

北森鴻 / 闇色のソプラノ

北森鴻氏の『闇色(あんしょく)のソプラノ(1998年)』。
一晩で読み終えてしまった。

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大本は山口県で始まった事件が、数十年経った東京の遠誉野市という架空の市で形を変えながら展開されていくというストーリー。
神がいない土地、とされた遠誉野市に引き寄せられた人物たちが絡み合って、起こっていく殺人事件。

土地というものに神秘性を持たせて、ストーリーの怪しい舞台とさせているのだけれど、文章全体の説明にあてる部分のバランスのせいか、あまり読み手には効果的でなかったかもと。
あと、ストーリーの全体が「偶然」というものに支配され過ぎているのは、フィクションとはいえ引っかかる部分?

とはいえその「偶然」を最大限に利用しつつ、組み立てはすばらしいのひと言。
裏表紙にも書かれている、キーとなる童謡詩人の書いた詩の中の「しゃぼろん、しゃぼろん」という擬音の正体がなんだったかということは、作品全体の通奏音。
広げた風呂敷は最後の1ページまで丁寧にたたまれるし、こちらが気づいていなかった細かい部分まで拾ってきて解決をつけるのはさすが。
すべての謎が終盤に向けてどんどん解決されていくのは、読んでいて気持ちの良いことは間違いないと思います。


傑作かどうかはわかりませんが、隙のない作品。
とても面白かったというのが、正しい自分としての評価。  
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2013年12月18日

岡嶋二人 / 七日間の身代金

岡嶋二人氏の「七日間の身代金(1986年)」。

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誘拐事件からつながる2つの密室事件とを1冊に詰め込んだミステリ。
序盤の身代金受け渡し(の人物を追いかける)のシーンはちょっとしたカーチェイスだし、それが終わって身代金受け渡し後の劇的な展開まで若干50ページほどと、かなりストーリーのテンポは良い。

犯人は選択肢が狭められているので想像がつくかもですが、その身代金受け渡しの小島でのトリックはなかなか面白いかも。

行方不明になりながら、生死はともかくとして発見されていく人々の役回りが変わり続けていくのが本作の興味深い点なのではないかと。
誘拐・密室・恋愛と本当に色々な材料を詰め込んだ、テンポの良い作品だったと思います。
読後感が良い。


岡嶋二人氏の作品は何冊かまとめて買ったのですが、「人さらいの岡嶋」と呼ばれていたそうで(笑)、誘拐ものにも注目しつつこれから読んでいきたいと思います。  
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2012年07月11日

北森鴻 / 狂乱廿四孝(きょうらんにじゅうしこう)

北森鴻氏のデビュー作『狂乱廿四孝(きょうらんにじゅうしこう)(1995年)』。鮎川哲也賞受賞作。

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明治初期というわりと珍しい時代を舞台に、時代の変わり目に直面しつつある江戸歌舞伎界で起こる連続殺人事件を解いていく作品。
表紙の幽霊画が、通奏音のように謎を投げかけ続けているというのはなかなか面白い。

探偵役にあたる戯作者見習いの"お峯"はフィクションのキャラクターですが、それ以外の登場人物はほぼ実在で、名女形"三代目澤村田之助"や"河原崎権之助九代目市川団十郎)"などを主要なキャラクターに据えて作品を組み立てているあたりは、デビュー作にしてすでに綿密な取材をしていたであろうことが伺えるのではないかと。

しかしまあさすがにデビュー作という感触はあって、ちょっと冗長に感じる部分はかなりあったり。
作者の近年の作品も数多く読んできたので、作家として成長したあとにデビュー作を読めばこういう印象にはなるかとも思いますが。


本作の原型となった短編『狂斎幽霊画考』がボーナストラック的に収録されていますが、これはさすがに完成度はまだまだだなぁと思うものの、比較として読むとなかなか面白い。


北森鴻氏の新作はもう出ませんが、まだ読んでいない作品があるので、徐々に読んでいきたいと思います。  
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2012年05月14日

歌野晶午 / 葉桜の季節に君を想うということ

歌野晶午の『葉桜の季節に君を想うということ(2003年)』。
超有名作ですが(汗)今さら読みました。

Hazakura

 第57回日本推理作家協会賞受賞
 第4回本格ミステリ大賞受賞
 このミステリーがすごい! 2004年版第1位
 本格ミステリベスト10 2004年版第1位
 週刊文春 推理小説ベスト10 2003年度第2位


上記のように、ミステリの各賞を総なめといっていいくらいの評価を受けた作品。
読んでいても、文庫版で470ページの長さをほとんど感じないくらいに場面展開がスムーズで、各章の長さもまさに絶妙といった印象。

しかしミステリという部分をみると、"謎"とされるのはひき逃げで殺された資産家の老人が悪徳商法集団に保険金をかけられていた証拠探しという部分と、過去に主人公が関わった殺人事件についてというものがメイン。
保険金詐欺の方は、クライマックスでもその点では若干盛り上がりに欠けるし、過去の事件は"消えた証拠"を事件の中心寄りに持ってきて考えればそう複雑な事件ではないかと。

読者のミスリードを誘うテクニックのひとつに、細かいディテールを描かないということがあることを理解していれば、作品全体のトリックには気づきましたし、細部の謎にもそう驚きはなく。


ただこの作品の価値は、410ページをかけてキレイにどんでん返しまで持っていった組み立て方の部分よりも、タイトルの意味が強力にこちらへ訴えてきてまた
非常にポジティブなラスト数ページと、ミステリとは別もののエネルギッシュさを感じる読後感に尽きるんじゃないかと。
そういった意味で、ミステリという特定のジャンルではなく純粋に小説として評価した方が良い傑作なんじゃないかと思います。
  
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2011年12月19日

有栖川有栖 / 火村英生に捧げる犯罪

最近読書のペースがかなり落ちているんですが、かなり時間をかけつつもやっと読み終わった有栖川有栖氏の『火村英生に捧げる犯罪(2008年)』。文庫版は今年発売。

Himura

自分は本は文庫版で買うようにしているので(もう置き場が無いので(汗))、文庫化されている「作家アリスシリーズ」では最も最近の作品で、また2007年の学校教育法の改正により「火村助教授」から「火村准教授」になってからは初めて読むことになった作品。
Wikipediaによれば、「助教授=准教授」ってわけでもないらしいんですが。

2004年から2008年に渡って各所で掲載された短編ミステリを集めた短編集で、10ページ程度のショートショートに相当するようなミステリもあり。

しかし各話のトリックは、けして小さなものではないものが多く、普通だったらこれを引き延ばして長編にするのではないかというようなものばかり。
最近の有栖川有栖氏の作品は薄っぺらい派手さはあまり無く、読んでいて安定感と安心感を感じるということが多いように思います。
物語が破綻しそうな雰囲気を漂わせる若手の作品というのももちろんスリリングさはあって良いのですが、こういう円熟味を感じさせる作品の方が完成度の高さを噛み締められて最近は良いかも。自分の年齢とも相まって(爆)。

この作品の前作『妃は船を沈める(2008年)』も去年文庫版が出ているので(ちょっとサイズが大きいけれど)、そろそろ見つけたら読んでみようと思います。  
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2011年08月26日

歌野晶午 / 動く家の殺人

歌野晶午氏の"家シリーズ"3作目、『動く家の殺人(1989年)』。

Ugokuie

久しぶりにとんでもないミステリに出会ったという衝撃。
はっきり言うと竜頭蛇尾という感想以外にないんですが(爆)。

作品終盤で容疑者を前に、タイトルの『動く家』に大きく関連したトリックが指摘されるものの、あまりに大掛かり過ぎて一瞬こちらを驚かせてくれたそのトリックが空振りで、実際の真相はあまりにあっけないという。

むしろ、主人公の探偵"信濃譲二"が殺害されることの真相の方が力が入ってしまっているというか。
伏線というか、これまでのシリーズと比べての違和感は最初からまき散らされているのもの、こちらの方が読んでいて驚きが大きかったので。

実は"家シリーズ" の前作、『白い家の殺人(1989年)』と、短編集の『放浪探偵と七つの殺人(1999年)』も読んでいたんですが、これらもちょっと期待はずれで(汗)。


歌野晶午氏といえば今やもうベストセラー作家なので、改めてこの"信濃譲二シリーズ"で新作を書いてもらえないかな、とも思うんですけど。  
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2011年07月18日

有栖川有栖 / 女王国の城

有栖川有栖氏の『女王国の城(2007年)』。
文庫版(2011年)では2冊、約850ページに及ぶ大作ですが、ほぼ一気に読んでしまいました。

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"学生アリス"シリーズとしては、『双頭の悪魔(1992年)』以来15年振りとなった今作。
クローズドサークルものをひとつのテーマとしているこのシリーズの今回の舞台は、宗教団体の信者がほとんどを占める町。そしてメインとなるのは、教祖と幹部が住む近未来的なデザインの、"城"と呼ばれることになる建築物。

ネタバレは極力避けたいので、内容をここに書くのは控えますが、展開としては筆者が文庫版あとがきで書いているように、上巻が"静の巻"下巻が"動の巻"というようなテンポ。

当の宗教団体にまつわるUFOや宇宙人との交信の話からカフカ、また不思議なマチに関する話題が延々続くこともあって、その状況でこの話を続ける余裕があるのか? と思うシーンもあったりはするのですが。
ただ、それらも実は大小の風呂敷であったりして、それを最終的にきっちり畳んでくれるのは読後の充実感につながるのかと。

やはりこの作家は、緻密で丁寧な組み立て方をするのだな、と実感。
なんだかんだでこの長さのストーリーを、潜入・軟禁・脱走と事件・捜査・解決を織り交ぜて飽きない展開に仕立てているのは、本当に組み立て方が上手いなぁと。


殺人事件の犯人が明かされても、まだまだ別の謎が残っているくらい数多く張り巡らされた伏線。
傑作だと思います。  
Posted by toshihiko_watanabe at 23:47Comments(0)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加