2012年03月02日

北森鴻 / 冥府神の産声

昨日の父親の手術の時間の間に読んでいた、北森鴻氏の『冥府神(アヌビス)の産声(1997年)』。

Anubis

物語は、
大学医学部教授の吉井が刺殺される場面から。
かつて彼の大学研究室での優秀な部下でありながら、半旗を翻し大学を追われた、現在は医療ライターの相馬。
相馬を狂言回し兼探偵として物語は進んでいくのですが、脳死患者からの臓器移植の法案に絡む脳死臨調(脳死問題臨時調整委員会)の実質的リーダーが吉井教授ということで、製薬会社の利権が絡んでいたり政治的な思惑が絡んでいたり。
また相馬と同期で、相馬の後にやはり大学を追われた九条。
新宿のホームレス街で、不思議な能力を持った少女トウトと共に居る九条が大学を追われることになった禁断の実験とはなにか?
そして吉井教授を殺害した犯人は?
というのがミステリとしては主題となる推理小説。


ただ脳死問題を扱っていることもあって、教授を殺害した犯人探しに気が回らなくなるくらい、色々と考えさせられるテーマ。

一人称の死・二人称の死・三人称の死、
で、それぞれほぼすべての人の、死への感情が変わるというのは当たり前ながらとても深い内容でしたし、自分の父親がくも膜下出血で意識がないということもあって、脳死植物状態の違いなどを調べた最近の自分の経験に沿っていたりというのも。

もちろんこういう内容の本を、脳神経外科病院の中で読んでいるという環境がハマり過ぎていて非常に不思議な経験でしたが。
結局手術時間の2時間で全体の2/3を読んで、家に帰ってからすぐに読み終わってしまいました。

どの段階で脳死なのかというような非常に深い、また当時の政治情勢とリンクする部分があるところもまた興味深い点なんじゃないかと。

自分の境遇のおかげで作品への没入度が高まったという部分は間違いなくありますが、それを差し引いてもかなり興味深いテーマを持った、面白いと言える作品だったと思います。
  

Posted by toshihiko_watanabe at 23:10Comments(0)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加