2012年09月05日

有栖川有栖 / 妃は船を沈める

有栖川有栖氏の「妃は船を沈める(2008年)」。
光文社からの文庫版は今年春発売で、発売されてすぐ買っていたような気がするのだけれど、ずっと積んでいた(汗)。

Kisaki

作品は2部構成で、長めの中編といった印象。約270ページと枚数自体も長編としては足りない。
おかげで(笑)中断するタイミングを外してしまって、結局1日で読み終わってしまった。


内容は、2件の殺人事件に関わり、作品全体でも探偵役の火村准教授と対峙し続ける妃沙子(ひさこ)という女性を中心とする物語。
妃沙子が犯罪者サイドにいることは確かなのだけれど、実行犯を操ってという関わり方なのかもしれず、犯人探しとしてはこの点もキーになるところ。

そして特に第1部でのトリックにも関わってくる、
W・W・ジェイコブズの短編『猿の手(1902年)』。
非常に短い短編なので作中でも概要は語られていますが、この作品に対する別の解釈というものには驚かされる。作中では火村准教授の意見ですが、これはもちろん著者の有栖川有栖氏の考え。
ホラーであったり怪奇小説として知られる同作への解釈としては斬新なもので、この解釈をこの作品に上手く混ぜているというのは、さすがベテランの技術なんだろうと。


犯人の犯行理由というよりは、トリックとロジックに重きを置いたつくり方だとは思いますが、次が気になる組み立て方はさすがだし、読んでいての安心感があるのもさすが。
有栖川有栖氏の文庫化されている作品はすべて読んでしまっているので、新作が出ない限りその安心感のある文章にも触れられないのですが、そろそろ初期の作品から読み返していっても良いかなぁと。

数年前にアガサ・クリスティポワロものをすべて読み返したときにもあった、犯人かトリックかは忘れてしまっている(爆)というやや新鮮な読書が出来るかもしれないので
  

Posted by toshihiko_watanabe at 22:31Comments(1)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加