2011年07月11日

北森鴻 / 香菜里屋を知っていますか

北森鴻氏の『香菜里屋を知っていますか(2007年)』。
先日出た文庫版で。

Kanariya

桜の下にて花死なむ(1998年)』『桜宵(2003年)』『螢坂(2004年)』と続いてきた連作短編集の最終巻。
今作には5編の短編が収録されていますが、このシリーズの登場人物にそれぞれ決着をつけていくのがメイン。
前作までとはちょっと雰囲気も違って、全体的に物哀しいというか。
もちろん去年作者が亡くなっているということで、本当に続編が出ない完結作となっていることもありますが。


今回の大きな主題は、シリーズの主人公でビアバー"香菜里屋"のマスター、工藤哲也の過去。
すべてが語られる最終話で、作者の他のシリーズの人物が出てくるのはファンサービスか。
まあこの作者の興味深い点は、それぞれのシリーズの登場人物が、他のシリーズに頻繁に登場して独自の北森鴻ワールドをつくっていたという部分。
今作で香菜里屋シリーズは終わったとはいえ、いずれ他のシリーズで工藤哲也が再登場してまたその話を膨らませる可能性もあったかと考えると、作者の死去によりそれも永遠に無くなったというのは本当に残念。


一緒に収められている「双獣記」は絶筆により、おそらく序章辺りまでで終わってしまっていますが、飛鳥時代というちょっと珍しい時代を舞台にしているのと、登場人物のファンタジックな幻術が続きを期待させる作品。
このあとの展開が気になってしまうので、収録してもらわなかった方が良かったかとも思いますが(苦笑)。


料理の描写が実に美味しそうに感じる、もちろん推理小説としても優れた希有な短編集だったと思います。
また 『桜の下にて花死なむ』から読み返してみたいと思っていますわ。  

Posted by toshihiko_watanabe at 23:47Comments(0)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加