2012年07月11日

北森鴻 / 狂乱廿四孝(きょうらんにじゅうしこう)

北森鴻氏のデビュー作『狂乱廿四孝(きょうらんにじゅうしこう)(1995年)』。鮎川哲也賞受賞作。

Kyouran

明治初期というわりと珍しい時代を舞台に、時代の変わり目に直面しつつある江戸歌舞伎界で起こる連続殺人事件を解いていく作品。
表紙の幽霊画が、通奏音のように謎を投げかけ続けているというのはなかなか面白い。

探偵役にあたる戯作者見習いの"お峯"はフィクションのキャラクターですが、それ以外の登場人物はほぼ実在で、名女形"三代目澤村田之助"や"河原崎権之助九代目市川団十郎)"などを主要なキャラクターに据えて作品を組み立てているあたりは、デビュー作にしてすでに綿密な取材をしていたであろうことが伺えるのではないかと。

しかしまあさすがにデビュー作という感触はあって、ちょっと冗長に感じる部分はかなりあったり。
作者の近年の作品も数多く読んできたので、作家として成長したあとにデビュー作を読めばこういう印象にはなるかとも思いますが。


本作の原型となった短編『狂斎幽霊画考』がボーナストラック的に収録されていますが、これはさすがに完成度はまだまだだなぁと思うものの、比較として読むとなかなか面白い。


北森鴻氏の新作はもう出ませんが、まだ読んでいない作品があるので、徐々に読んでいきたいと思います。  

Posted by toshihiko_watanabe at 23:58Comments(0)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加

2011年04月13日

法月綸太郎 / 生首に聞いてみろ

この間から読み返していた法月綸太郎氏の"探偵法月綸太郎"モノも、『生首に聞いてみろ(2004年)』まで辿り着いてこれが最後。

Namakubi

読み返しなので2回目ですが、犯人等がわかっていてもそれでも面白く読める。
なにより再読でも驚かされるのが、超綿密に構成されたロジックと、結末に向かってバラ撒いた伏線をすべて収束させていく展開。
正に、密度の濃い本格推理小説の傑作だと思います。


本格ミステリ大賞」第5回大賞受賞・「このミステリーがすごい!」2005年1位受賞作のわりには、世間での評判はそこまで良くない印象もありますが、原因としては終盤で探偵が冷めてしまっていて、容疑者を集めて犯人を名指しするといったような、ミステリでお約束的なクライマックスのシーンが無いということもあるのかも。
しかも、その事件のあらましを語るシーン自体には50ページも割かれていたりもするんで。

ただ探偵の側に立ってみれば、この展開の中で犯人の目の前で指名をするのは、実際はただの自己満足かもしれませんし。
"探偵の、推理小説における存在意義"という難題を、以前ほど重くはなくとも抱え続けている筆者には当然の展開だったのかも。


なんにしても、ロジックの展開〜収束という推理小説の非常に重要な点が綿密に組み立てられた、日本の本格推理小説の傑作の1冊だと思います。
  
Posted by toshihiko_watanabe at 23:46Comments(0)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加