2014年04月02日

吉川英治 / 鳴門秘帖

最近ずっと読んでいた、吉川英治氏の『鳴門秘帖』。吉川英治氏が没後50年経過ということで、著作権フリーの青空文庫で出始めたのをKindle PWで。

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吉川英治氏の描くヒーロー像というものは『宮本武蔵』に一番顕著に現れていると思うのだけれど、色恋沙汰を避けてとにかくストイックという印象。もちろん本作が1926〜27年という戦前に書かれた作品ということもあるでしょうが。
今作の主人公、法月弦之丞も完全に同系統の主人公で、お千絵・見返りお綱・お米という3人の女性に好意を寄せられるものの、自分の任務のためには相手にしないという対応。
その辺は、現代の小説の一般的なヒーローを体験したあとにはかなりじれったい(笑)。
ただ、これが日本人の思うヒーロー像のひとつであることも間違いなく。


ちなみに法月弦之丞は、ミステリ作家法月綸太郎氏のペンネームの元だとか。


作品の内容については、1巻ではあまり食いつけずに読んでいたものが2巻に入って以降が面白い。
巻ごとの地域の移り変わりがハッキリしていたり展開がスピーディーというのもありますが、プロットの組み立てがとにかく上手い。
大なり小なりの起承転結と、広げた風呂敷の畳み方はかなり上手いと思わされるし、そこそこ多い登場人物のキャラクターづけも多様にされている。
敵役が3人必要かだっただけは微妙なところですが(笑)。


それだけに、感情移入していける登場人物の中で残念なのは、スリという稼業で登場する見返りお綱の扱い。
彼女の出自が明かされる場面はなかなか劇的で、読んでいてもちょっと驚かされたのですが、登場頻度などを考えても実は彼女がこの作品の主人公なのではないかということは思わされるものの、結局は勧善懲悪という吉川英治氏の基本的な作風か書かれた時代のせいかはわかりませんが、スリという稼業のために用意された最後と、エピローグ部分での彼女はとにかく悲しい。
はっきり言えば、彼女の扱いの悪さで読後感が物悲しくなっている(涙)。


とはいえ、エンターテインメントとしてかなり面白い小説だったのは間違いなし。
見返りお綱にそれだけ感情移入出来るのも、作品の完成度が高いからですし。
阿波徳島藩第10代藩主の蜂須賀重喜が、30代で蟄居させられたという裏には大きな謎があるのではということから描かれたというフィクションの時代小説ですが、書かれてもうすぐ90年になろうかという作品ながら読み応えは十分にあるかと思います。
  

Posted by toshihiko_watanabe at 23:33Comments(0)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加