2012年05月14日

歌野晶午 / 葉桜の季節に君を想うということ

歌野晶午の『葉桜の季節に君を想うということ(2003年)』。
超有名作ですが(汗)今さら読みました。

Hazakura

 第57回日本推理作家協会賞受賞
 第4回本格ミステリ大賞受賞
 このミステリーがすごい! 2004年版第1位
 本格ミステリベスト10 2004年版第1位
 週刊文春 推理小説ベスト10 2003年度第2位


上記のように、ミステリの各賞を総なめといっていいくらいの評価を受けた作品。
読んでいても、文庫版で470ページの長さをほとんど感じないくらいに場面展開がスムーズで、各章の長さもまさに絶妙といった印象。

しかしミステリという部分をみると、"謎"とされるのはひき逃げで殺された資産家の老人が悪徳商法集団に保険金をかけられていた証拠探しという部分と、過去に主人公が関わった殺人事件についてというものがメイン。
保険金詐欺の方は、クライマックスでもその点では若干盛り上がりに欠けるし、過去の事件は"消えた証拠"を事件の中心寄りに持ってきて考えればそう複雑な事件ではないかと。

読者のミスリードを誘うテクニックのひとつに、細かいディテールを描かないということがあることを理解していれば、作品全体のトリックには気づきましたし、細部の謎にもそう驚きはなく。


ただこの作品の価値は、410ページをかけてキレイにどんでん返しまで持っていった組み立て方の部分よりも、タイトルの意味が強力にこちらへ訴えてきてまた
非常にポジティブなラスト数ページと、ミステリとは別もののエネルギッシュさを感じる読後感に尽きるんじゃないかと。
そういった意味で、ミステリという特定のジャンルではなく純粋に小説として評価した方が良い傑作なんじゃないかと思います。
  

Posted by toshihiko_watanabe at 23:51Comments(0)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加