ようやく買って聴いた、King Crimson(キング・クリムゾン)の1995年発表のスタジオアルバム『THRAK (40th Anniversary Series)(2015年)』の40周年盤。
40周年盤というのは、1stアルバムの『In The Court of The Crimson King(1969年)』から40年の2009年から始まったハイレゾ&サラウンドミックス盤の企画なので、この『THRAK』に関しては発売から20周年ですが。
いつも通りに、DVDオーディオ盤の「MLP Lossless 5.1 Surround」を聴く。
今回はボーナストラックやビデオ等の収録は無し。
このアルバムは95年の発売当時から聴いていて、Guitar・Chapman Stick & Warr Guitar・Drumsがそれぞれ2人ずつの計6人で"ダブルトリオ"と銘打ったKing Crimsonのスタジオフルアルバムだったのですが、曲とは別にサウンドに関しては、メンバーそれぞれがどういう演奏しているのかはあまり判別できなかったというのが当時の自分の感想。
特にドラムス2人の演奏は、ステレオの左右に振られたミックスが多かったとはいえツインドラムスの意義と効果もいまいちで、このアルバムでは全体的にダブルトリオの真価は発揮出来なかったというのが世間的な評価なはず。
ロックバンドフォーマットでの6人編成のサウンドというのは、おそらく聞き取りやすさと音圧のバランスを保ったまま2chステレオに収めるのは限界がある面もあって、ミックスについては当時も「サラウンド仕様でのリリースも計画したけれど機器的な制約の多さから断念」というバンドへのインタビュー記事を目にした記憶があるのですが、サラウンド音源が普通に収録されるようになったDVDが一般化したのも90年代後半だったはずなので、そこはバンドが先を行き過ぎていたという部分もあって仕方がなかったのかもと。
ただ、今でもサラウンドの再生環境がある人はあまりいないというのが自分の印象で、今回のようなサラウンド版を含んだパッケージでも、買った人のうちの1/10がサラウンドで聴いているかどうかなんじゃあ???と思うのですが。
いくら待ってもリスナー側がついてこなかったというのが寂しい現実なのかもしれませんが。
ちなみに、ダブルトリオの意義を自分がちゃんと把握できたと感じたのが、ライヴDVD作品『deja VROOOM(1999年)』。
映像自体は1995年の日本公演を収録したVHSの『Live In Japan(1996年)』のDVD版だったので、買い直しという意識で購入したと思うのですが、全編が5.1chサラウンド音源化に1曲目の「VROOOM VROOOM」ではメンバー6人各自にカメラを固定できるマルチアングル収録ということで、これらを観て聴いてやっと各自がどういう演奏をしているのかということを完全に理解できたという作品。
今回の『THRAK』のサラウンドミックスは『deja VROOOM』のものとはまた別なものなのですが、『deja VROOOM』が参考になって理解が深まる部分も多かったので。
さてようやく『THRAK』のサラウンド音源の感想(汗)。
アルバムをリードするのは、1曲目の「VROOOM」であり最後の曲の「VROOOM VROOOM」だと考えているのですが、特にこの両曲ではドラムスは前面のスピーカーにPat Mastelotto、後方のスピーカーにBill Brufordがハッキリと振り分けられ、非常に聞き取りやすくなった。
弦楽器4人のハードな演奏も、周囲に振られると分離が良くて聴きやすく、なおかつ音圧はある。
モノラル音源のパワーというものも実感としてはあるのですが、自分は音楽として聴くのと同時にどういう演奏をしているのか分析したいという部分も大きくあるので、サラウンド音源の聞き取りやすさというところも評価したいと思っています。
個人的には、80年代の「Thela Hun Ginjeet」「Sleepless」に肩を並べるくらいTony Levinの超パーカッシブなBassが炸裂していると思っている「People」も、Bassを中心に周囲に散らばる音世界が面白い。
King Crimsonというバンドは、『Larks' Tongues in Aspic(太陽と戦慄)(1973年)』でBill BrufordとパーカッショニストのJamie Muirで実質ツインドラム化。
80年代にも、ギタリストのAdrian Belewがドラムを叩いてツインドラムになる曲もありましたが。
この90年代のダブルトリオで再びツインドラムになり、非常に短命に終わってしまったものの2008年の短いツアーでもGavin Harrisonを加えたツインドラム。
そして今現在はトリプルドラムの編成になっているということで、リーダーのRobert Frippには常にマルチドラムであったりリズムの複雑化への意識というものがあると思うのですが、オーディオで聴き手がそれを理解しやすくなるのはやはりサラウンドミックスなのではとも。
ミックスは別として曲や演奏は、『THRAK』の前に顔見せ的にリリースされた30分のミニアルバム『VROOOM(1994年)』の方が良かった部分も多いというのが、ずっと抱いている感想だったりしますが(爆)。
『VROOOM』での良い意味での演奏の荒さだったりフリーだった箇所が、『THRAK』ではカッチリとした演奏になって失われた部分も多かったと思うので。
とはいえ今回の『THRAK』のサラウンドミックスは、ダブルトリオの意義を感じられるサウンドになったと思っているので、今後も聴き続けていくとまた色々発見があるのではと期待もしています。